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気休めでは治りません | |
原因不明の病気だからといって「何をしてもよい」と言うわけではありませんし、痛みに苦しんでいる患者さんを眼前にして「何もしない」というわけにもいきません。現在までの科学的知見からできる限り有効と考えられる治療計画を提示するべきです。 舌痛症(glossodynia)の治療に際しては、口腔の解剖・生理学的特徴に精通していなければなりません。正常な状態がどういうものかを知らなければ、病的な状態がどういうもので、どうやったら治るのか、知りようもないからです。冠や義歯などの歯科治療後に発症することも多いため、歯科口腔外科が本症の受け皿となることがしばしばです。 基本的には、通常の消炎鎮痛剤や口内炎用の軟膏などは、気休め以上の効果はありません。いくら歯を研磨しても「歯がこすれるような痛み」はあまり変化しません。各種心理療法のみでは効果が少なく、いくら説教や講釈を重ねても口腔の異常感が続く限り、患者さんの訴えは止みません。そもそも口の中が痛いのを、その人の性格や生き方のせいにされてはたまりません。この病気を「心気症」だと一括する精神科医の意見もありますが、治療にあまり関心がないことの免罪符にされている場合もあります。注射による神経ブロックなども効果が疑問視されています。 |
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抗うつ薬が有効です | |
現在、最も有望な治療法は抗うつ薬を中心とした薬物療法です。SSRI、SNRIやTCAの内服治療が中心となります。30年以上前から、舌痛症にアミトリプチリン塩酸塩などの三環系抗うつ薬が有効であることが報告されています。現在では、うつ病の有無に関わらず、このような薬が鎮痛効果を持つことが科学的に証明されています。 処方の際は、「もともとはうつ病に使う薬だが、今回は口腔の痛みなどを治療するために使う」と説明してから服用してもらっています。早ければ4-5日めから、遅くても1週間から10日くらいで痛みが緩和していきます。理想的に治療が進展していけば、3-4週間後には痛みは7割方改善していきます。途中で、副作用の項目で気になる症状・徴候が出現するようであればすぐにご連絡をいただくようにお願いしています。 効果が十分得られたらそのまま数ヶ月は薬を続けて再発・再燃を防ぎます。症状に波はありますが、徐々に落ち着きますので心配は要りません。一生飲み続けないといけないものではありませんが、最終的には、半年から1年くらいは続けた方がよい場合が多いようです。年単位で継続しても、きちんと通院していれば特に副作用などの問題は心配ありません。 しかし、舌痛症の痛みに対して、抗うつ薬なら何でも効く、というものではありません。どうしても薬が合う、合わないという問題があり、効果には残念ながら個人差があります。その患者さんごとに脳内で起こっている変化が微妙に異なる部分があるらしく、一つの薬で全員が治るというところまでは確立されていません。 SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬 SNRI:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 TCA:三環系抗うつ薬 |
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「うつ病の薬だとか、安定剤とか、こんな薬を飲んでいると 何かおかしくなっちゃうんじゃあないでしょうか?」 |
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このようなご相談を受けることが時々ありますが、基本的には処方の指示通り服用されている限り、ご心配はいりません。 患者さんにとっては、薬局でもらう「気分が落ち着く薬」「意欲を高める薬」などといった説明書で「あれ?」っと心配したり、ちょっとした副作用でも不安になったり、さらには「そんな薬は飲まないほうがよい」といった家族や周囲の声に動揺したりしがちです。 効果発現の個人差や特有の副作用などを勘案しながら薬剤の種類や用量を調整していく必要があることから、このような薬剤を敬遠する医師・歯科医師もまだまだ多いようです。 複雑で多様な脳内の神経回路の機能障害に臨機応変にめぼしを付け、副作用など異常事態にも敏速かつ適切に対処するには、相応の知識と臨床経験に裏づけされた判断力が必要です。しかし、臨床経験の蓄積というものは重要ですが、患者さんの治療に際しては行き会ったりばったりの経験の積み重ねだけに頼るのではなく、生物の法則の正確な理解に基づかねばなりません。薬剤選択はKKD(経験、勘、度胸)のみに基づくのではなく、標的症状と薬剤のプロフィールを勘案する必要があります。 例えばトラゾドン塩酸塩は主にセロトニン2受容体に強力な拮抗作用を持つため鎮静作用は強く、不眠には有効ですが、痛みに対する効果はあまり期待できません。 一方ミルナシプラン塩酸塩やアミトリプチリン塩酸塩は、シナプス間隙におけるセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、下行性抑制系や前頭葉機能を回復することで強い鎮痛効果を発揮すると考えられています。 抗不安薬やスルピリドで一時的に痛みを緩和することもありますが、基本的には単剤では舌痛症の寛解は得られ難いようです。近年、抗不安薬の依存性も問題視されており、抗うつ薬との上手な併用によって、その効果が最大限に発揮できると考えます。 舌痛症の治療も、データに基づきプロセスを解析する方向に転換し始めているのです。これまで臨床上の経験的事実優先で病態解明が試みられてきましたが、今後は脳科学的知見が臨床経験に科学的な説明を与え、治療上のブレークスルーが起こってくるものと期待されています。 | |
抗うつ薬によるドライマウス | |
抗うつ薬や抗不安薬には唾液分泌抑制作用があり、確かに薬剤性ドライマウスの一因になる可能性はあります。しかし、経験的には抗うつ薬を減量しても口腔乾燥感は変化しなかったり、むしろ「乾く感じ」が強くなることすらしばしば経験されます。 この場合、他のドライマウスに準じた薬剤や保湿ジェルなどを上手に組み合わせて使うことで不快感を軽減させることができます。その際、薬剤の相互作用などの問題に注意しなければならないのは言うまでもありません。現在のところ、特に副作用は経験されていませんが、きちんとしたデータが待たれるところです。 舌痛症に対する効果とドライマウスなどの副作用を勘案しながら、その患者さんに最適な処方を見つけるには、医師と患者さんとの共同作業が大事になります。 経験の十分な医師・歯科医師の指示通りに服薬し、疑問や不安なことはその都度相談していけば、後々問題になるような副作用は回避できます。 | |
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